こんにちは
2ndスクールオンライン 教室長の奥田美保です。
「ママ、今日の宿題、見てくれる?」
小3になった息子の声に、
「ちょっと待って!」と答えながら、手はまな板の上の野菜から離れない。
仕事、家事、学校からのプリント、習い事の送迎。
気づけば一日が終わっていて、布団に入るころにはスマホを握ったまま寝落ちしている。
――そういえば最近、「ただ座ってお茶を飲むだけの時間」って、あったっけ?
これは、中学受験を本格的に考え始める前の、小3の春。
一生懸命毎日をまわしていたママが、
少しだけ自分の時間について考え始めたときのお話です。
朝6時半。
キッチンタイマーのように、毎朝同じ音でスマホが鳴る。
アラームを止めて、天井を見上げながら、頭の中で一日を早送りする。
(今日は夕方に学童のお迎え、そのあとピアノ。
会社では例の会議もあるし…。)
布団から出てキッチンに立つと、すぐに小さな足音が近づいてくる。
「ママ、ティッシュどこ?」
(おはようより先に、それ?)
心の中ではそうツッコミつつ、口から出るのはいつもの台詞だ。
「おはよう。ほら、いつもの棚にあるよ」
トーストを焼きながら、スープを温め、同時に洗濯機を回し、ゴミ袋をしばる。
その合間に、学校の時間割と、週1回の塾のプリントをチラ見する。
「今日、音読カード出す日じゃなかった?」
「あ、そうだった」
「ほら、朝ごはん食べながらでもいいから読もうか」
テレビをつける余裕はない。
息子が食べている横で、自分のトーストを立ったままかじる。
マグカップのコーヒーは、気づくと冷めてシンクの片隅に置かれていることが多い。
仕事を終えてスーパーに寄り、
レジ袋を両手にぶら下げて帰宅する。
「ただいまー」
「おかえりー! 今日ね、体育でドッジボールやったよ」
息子の話を「うんうん」と聞きながら、エプロンをつけてフライパンに火をつける。
夕飯を作って、食べて、片付けて。
お風呂のスイッチを入れるころには、時計はもう20時を過ぎている。
「今日の宿題、もう終わった?」
「えーっと、あと計算ドリルが…」
「そろそろ始めようか。寝る時間、どんどん遅くなっちゃうよ」
ダイニングテーブルの上にプリントとドリルが広がる。
その横で、洗い物の残りを片づける。
「ママー、ここ合ってる?」
「ちょっと待って、今お皿片づけちゃうから」
そう言いながら、
(“ちょっと待って”って、今日何回言ったかな)
と、ふと頭をよぎる。
宿題が終わると、お風呂、ドライヤー、翌日の持ち物チェック。
「明日の持ち物なんだっけ?」
「えーっと、体操服と…書写セット…かも」
「“かも”じゃ困るのよ。プリント持ってきて」
気づけば、子どもが寝るのは22時近く。
布団に入ってからも、
「明日の会議どうしよう」
「あのメール返さないと」
頭の中は静かにならない。
ようやく息子が寝息を立てたあと、
スマホで「小3 中学受験 いつから」と検索してしまう。
「小3からの家庭学習がカギ」
「低学年の過ごし方で中学受験は決まる」
そんな言葉が並ぶ画面を見つめながら、
(いやいや、そんなこと言われても)
と心の中でツッコミつつ、画面を閉じる。
ある夜。
いつものように、夕飯を片づけ、洗濯物を干していたときのこと。
「ママ」
洗面所の入り口に、パジャマ姿の息子が立っていた。
「どうしたの? 歯みがき?」
「うん …あのさ、ママって、いつ寝てるの?」
「え?」
思わず手が止まる。
「ぼくが寝るときは、いつもママ起きてるじゃん。
朝起きるときも、もうキッチンにいるじゃん。
ママって、ちゃんと寝てるのかなって」
「ちゃんと寝てるよ。…たぶんね」
そう笑ってみせるけれど、胸のあたりが少しざわっとした。
(子どもの前で、“疲れた”って言うの、
あんまり好きじゃないんだよな)
そう思って、
仕事のことも、家計のことも、できるだけ飲み込んできた。
でも、「いつ寝てるの?」という一言は、思っていたより深く刺さった。
その夜は、布団の中でなかなか寝つけなかった。
少しして、ポストに1枚のチラシが入っていた。
「小3・小4のうちに知っておきたい
中学受験と“家庭学習”のポイント
保護者向け 入塾説明会」
(うちの学区の公立中学、正直この先どうなんだろう…)
(クラスのママたちも、最近みんな“塾どうする?”って話してるしな)
迷った末、土曜の午前中の説明会に申し込んだ。
通学路に面した、小さな中学受験塾。
スライド用のスクリーンの前に、座席が整然とに並べられている。
壁には、合格校一覧と、模試の偏差値表。
(塾って、こういう感じなんだ…)
最初に話があったのは、カリキュラムと料金の説明だった。
「4年生から本格的に中学受験カリキュラムが始まります」
「小3のうちは、算数と国語の“土台作り”の時期です」
よく聞くフレーズが一通り並ぶ。
(やっぱりそうだよね、小3からちゃんとしておかないとってやつ…)
そう思いながらメモを取っていると、
後半で登場したのが、「EDUカウンセラー」という肩書きの先生だった。
「ここからは、“塾以外の時間”の話をさせてください」
そう切り出された瞬間、
教室の空気が少し変わった気がした。
その先生は、まずこんな話をした。
「小3・小4は、勉強そのものより“学び方”を身につける時期です。
塾に通う・通わないに関わらず、
家での時間をどう過ごすかが、後々じわじわ効いてきます」
ここまでは、彩さんも予想していた内容だった。
「宿題を“やらせる”のではなく、
自分から取り組めるように声かけすることが大事です」
(うんうん、それは分かる)
メモを取りながら頷いていると、
先生は、少しだけトーンを変えて続けた。
「もうひとつ、あまり塾では言われないかもしれませんが、
実はとても大事なことがあります」
「それは―― “親御さんご自身の時間”です」
ペンを持つ手が、ぴたっと止まった。
「お子さんの宿題や習い事、生活リズムに気を配るのと同じくらい、
親御さんご自身が、
『自分のペースを取り戻す時間』
を、少しでも持てているかどうか」
“自分のペースを取り戻す時間”。
塾で聞くとは思っていなかったフレーズに、彩さんは思わず顔を上げた。
周りを見回すと、
他の保護者の方々も、少し驚いたような顔をしている。
先生は続けた。
「親御さんの時間なんて、“後回しで当然”と思っていらっしゃる方も多いと思います。
でも、その『いつも自分は後回し』という状態が続くと、
どうしても視野が狭くなってしまうんですね」
(視野…)
「例えば、お子さんの宿題を見ているとき。
こちらに余裕がないと、目に入ってくるのは“間違い”や“できていないところ”ばかりです。
でも、少しでも自分の時間を持てていると、
『ここまでできるようになったな』とか、
『どこでつまずいているんだろう』とか、
自然と“プロセス”にも目が向くようになります」
彩さんは、自分の最近の口ぐせを思い出していた。
「なんでこんな簡単な計算を間違えるの?」
「昨日も同じ漢字、間違えてたよね?」
(ああ…。
あの言葉が出るときって、大体ヘトヘトなときだ)
説明会が終わって塾を出たあと、
駅へ向かう細い商店街を歩きながら、心の中でつぶやいた。
(“自分の時間”なんて考える余裕、ない。
…ってずっと思ってきたけど。
その“ない”って状態のまま、
子どもの学びのことばかり心配してたんだな)
その日の夜。
息子が寝たあと、布団の中でなんとなくInstagramを開いた。
タイムラインに流れてきたのは、
学生時代の友人が上げていた、ホテルのアフタヌーンティーの写真。
3段のスタンドに、きれいに並んだスコーンと小さなケーキ。
上品なティーカップ。
「#ヌン活 #ごほうび時間 #たまにはいいよね」
そんなハッシュタグが並んでいる。
写真を見て、最初に浮かんだのは、
「いいなぁ」という素直な気持ちだった。
でもそのあとすぐに、別の声も聞こえてくる。
(ああいうのって、“時間に余裕がある人”が行く場所だよね。
平日の昼間に2時間とか、今の私には想像できないし)
画面を閉じようとして、指が止まる。
(…いつか、行ってみたいな)
声に出すには少し照れくさい願望を、
心の中だけで、そっと認めてみる。
「ヌン活」なんて、
雑誌やSNSで見かけるだけの遠い世界だと思っていた。
(でも、“いつか行きたい”っていう気持ちも、
どこかに置いてきぼりにしてたかもしれないな)
画面を暗くして、目を閉じる。
その夜は、
「自分の時間」と「いつかのヌン活」という言葉が、頭の中で何度か行ったり来たりしていた。
入塾説明会から数日後の日曜日。
朝ごはんを片づけながら、彩さんは意を決して、夫に話しかけた。
「ねえ、今日の午前中、1時間だけ外に出てもいい?」
「いいよ。どうしたの、珍しいね」
「ちょっと…1人で落ち着いて考えたいことがあって」
自分でも、何を考えたいのか、まだはっきりとは分かっていない。
ただ、説明会で聞いた先生の言葉と、昨日のヌン活写真と、
息子の「いつ寝てるの?」という一言が、頭の中でぐるぐるしていた。
家から2駅先のショッピングモールに向かう電車の中。
窓の外を流れていく街並みを見ながら、
(これが、“自分の時間”の入り口なのかもしれないな)
と、少しだけ不思議な気分になる。
モールの中にある、天井の高いカフェ。
開店直後で、まだ席には余裕があった。
カウンターで紅茶を頼み、窓際のテーブルに座る。
白いカップから、ふわっと湯気が立ち上る。
バッグから、小さなノートとペンを取り出す。
1ページ目の一番上に、こう書いた。
「今日の作戦会議」
線を引いて、その下を3つに分ける。
まず、「仕事のこと」から書き始める。
次に、「子どものこと」。
そして、「自分のこと」。
ここで、ペンが止まった。
しばらく考えてから、ようやく書き始める。
書き出してみると、
どれも特別な夢というほどのものではない。
(あれ? こんな簡単なことすら、
いつの間にか“贅沢”だと思うようになってたんだ)
紅茶を一口飲んで、深呼吸する。
(“自分の時間なんて後回しでいい”って、ずっと決めつけてたのは、
もしかしたら私自身だったのかもしれない)
そんなことをぼんやり考えながら、
カップの底に残った最後の一口まで、ゆっくり味わった。
家に帰ると、リビングのテーブルに算数ドリルが広がっていた。
「ママ、ここ分かんないんだよね」
問題文をちらっと見る。
いつもなら、「ちゃんと授業聞いてた?」が口から出そうな場面だ。
でも今日は、
カフェで開いた「作戦会議」のノートが頭の隅にあった。
(そうだ、“プロセスを見る”って先生言ってたな)
一度深呼吸をしてから、息子の隣に座る。
「どのあたりまで自分で考えた?」
「ここまでは分かったんだけど、この文章の意味が…」
一緒にゆっくり問題文を読む。
「この“3個ずつ”って言葉、どんな意味だったっけ?」
「…かけざん?」
「そうそう。じゃあ、“8人に配りました。全部で何個?”って聞かれてるってことは?」
「あ、3に8をかければいいのか!」
顔がパッと明るくなる。
(さっきの1時間がなかったら、
“なんで分からないの”って言いそうだったな)
ほんの少しだけ、心の中で苦笑いする。
その日以来、
彩さんは、無理のない範囲で「自分の時間」を探すようになった。
息子を起こす前に、
自分だけ先にキッチンへ行き、お湯を沸かす。
お気に入りのマグカップに紅茶を注ぎ、スマホもテレビもつけずに、ただ立ち上る湯気を眺める。
その日一日のうち、
「こうなってたらいいな」を一つだけ決める。
たった3分でも、
「何もしていないようで、何かを決めている時間」
があると、
不思議と一日の始まり方が変わる。
電車の中では、
ついSNSやニュースを開いてしまいがち。
でも、ある日から、
乗って最初の10分はスマホを見ないと決めた。
窓の外を眺めたり、
手帳に「今日できそうなこと」を3つだけ書き出したり。
(ヌン活はまだ先でも、
この10分は“ヌン活予備軍タイム”ってことにしよう)
心の中でそんな名前をつけると、
少しだけ楽しくなった。
寝る前、
スマホの代わりに、カフェで使ったノートを開く。
その日に「よかったこと」を3つ書く。
できていないことよりも、
小さな「できた」に目を向ける練習は、子どもよりも、まず自分に必要なのかもしれない。
ページを閉じるころには、
少しだけ肩の力が抜けている。
小3という学年は、
まだまだ遊びたい気持ちが強い一方で、少しずつ「学びの型」が必要になってくる時期です。
その一つひとつに、
親の関わり方がじんわりと影響していきます。
親にまったく余白がないとき――
逆に、
ほんの少しでも「自分の時間」を持てているとき――
彩さんの家でも、
たった1時間のカフェと、
毎日の小さな「ヌン活予備軍タイム」の積み重ねで、息子さんの表情はゆっくりと変わっていきました。
「宿題やりたくない」
と言っていたのが、
「ここまで終わったらゲームしていい?」
「ここを分かるようになりたいから、教えて」
と、自分の言葉で話し始めるようになったり。
「テスト、また間違えた」
とため息をついていたのが、
「ここはできたよ」
と、自分の伸びを見つけられるようになったり。
(この子の伸びを止めていた、というより、
見えにくくしていたのは、
私の余裕のなさだったのかもしれない)
そう静かに気づいたのは、
ある日の夜、ノートをめくっているときだったそうです。
ここまで読んでくださった方は、きっと、
日々、子どものことを一生懸命考えている小3ママだと思います。
頭の中には、たくさんの「To Do」が並んでいるはずです。
そのリストのどこかに、
「自分の時間」という項目は入っているでしょうか。
「子どものために頑張る自分」を責める必要は、まったくありません。
むしろ、それだけ真剣に向き合っている証拠です。
ただ、もし今、
そんな感覚が、心のどこかにあるとしたら。
一度、手帳かスマホのカレンダーを開いてみてください。
そして、どこか1マスで構わないので、小さく書き込んでみてください。
「ママの時間」
「ヌン活予備軍タイム」
「今日の作戦会議」
カフェでも、近所のベンチでも、
家のキッチンでもかまいません。
いつか本当に、
ホテルのラウンジでアフタヌーンティーを楽しむような時間とれる日が来たとき、
「そういえば、小3のころに、
あの“自分時間1時間作戦”を始めたんだよなぁ」
と懐かしく思い出してもらえたら、
この文章を書いた意味がある気がしています。
そして、
ゆったりと親御さんの自分の時間を取り戻しながら、お子さんが「どうしてだろう?」と自分で考え、心のエンジンを回せるような、
『学びと休息がセットになった時間』
を、いつかご用意したいと思っています。
そのときはきっと、
ヌン活の写真が似合うような、特別な場所から。
またここで、そっとお知らせさせてくださいね。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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